頭頸部診療とことんエコー活用術診断と治療社 | 書籍詳細:頭頸部診療とことんエコー活用術
神奈川県立がんセンター頭頸部外科部長
古川 まどか(ふるかわ まどか) 編集
初版 B5判 並製 282頁 2025年01月10日発行
ISBN9784787826664
定価:9,350円(本体価格8,500円+税)冊※ただいまメンテナンス中です。
近年,性能はもちろんのこと軽量小型化が進み,導入の敷居が低く使いやすくなったエコー検査.検査技師向けではなく,頭頸部外科医のための頭頸部疾患診断への近道,治療方針決定に直結するための実践的なエコー診断術を,豊富なエコー画像をはじめ,他のモダリティの画像もあわせて疾患別に解説.スクリーニングのテクニックや外科手術中,嚥下機能評価,エコーガイド下穿刺,ポイントオブケアといった場面でのエコーの活用方法も紹介.
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目次
はじめに 古川まどか
執筆者一覧
基礎編
A 頭頸部診療とエコー
1 頭頸部エコーの実際と頭頸部診療におけるエコーの活用 古川まどか
B 頭頸部エコーの基礎知識
1 頭頸部の部位ごとの解剖とエコー像
①頸部,咽頭,喉頭 花井信広
②口腔 林 孝文
③甲状腺・副甲状腺 北村守正
④唾液腺 東野正明
⑤リンパ節 齋藤大輔
2 頭頸部の部位ごとの主要な疾患
①頸部,咽頭,喉頭 松浦一登,富岡利文
②口腔 林 孝文
③甲状腺・副甲状腺 北村守正
④唾液腺 佐藤雄一郎
⑤リンパ節 齋藤大輔
3 頭頸部の部位ごとのエコーでの正しい描出法 藤本保志
4 頭頸部診療で用いられるエコー機器の実際 門田伸也
実践編
A 口腔の診療
1 舌がん 寺田星乃
2 口腔底がん 寺田星乃
3 頰粘膜がん 寺田星乃
4 歯肉がん 林 孝文
5 歯原性良性疾患 林 孝文
B 鼻腔・副鼻腔の診療
1 副鼻腔炎 松田枝里子
2 副鼻腔囊胞 松田枝里子
3 上顎洞がん,副鼻腔がん 古川まどか
4 鼻腔がん 古川まどか
C 咽頭の診療
1 咽頭炎・扁桃炎・扁桃周囲炎 古川まどか
2 中咽頭がん 古川まどか
3 下咽頭がん 古川まどか
4 咽頭悪性リンパ腫 古川まどか
D 喉頭の診療
1 声帯ポリープ 福原隆宏
2 喉頭がん 福原隆宏
3 声帯麻痺 福原隆宏
E 上部食道の診療
1 頸部食道がん 福原隆宏
2 食道憩室 福原隆宏
3 食道異物 福原隆宏
F 耳下腺の診療
1 耳下腺炎 松田枝里子
2 Sjögren症候群 松田枝里子
3 耳下腺良性腫瘍 古川まどか
4 耳下腺悪性腫瘍 古川まどか
5 副耳下腺腫瘍 古川まどか
G 顎下腺の診療
1 顎下腺炎 松田枝里子
2 顎下腺良性腫瘍 橋本香里
3 顎下腺悪性腫瘍 橋本香里
4 IgG4関連疾患 松田枝里子
H 舌下腺の診療
1 ガマ腫 東野正明
2 舌下腺がん 寺田星乃
I 甲状腺・副甲状腺の診療
1 橋本病 下出祐造
2 Basedow病 下出祐造
3 破壊性甲状腺炎 下出祐造
4 腺腫様結節,腺腫様甲状腺腫 下出祐造
5 甲状腺濾胞性腫瘍 下出祐造
6 甲状腺乳頭がん 下出祐造
7 甲状腺未分化がん 下出祐造
8 甲状腺リンパ腫 下出祐造
9 副甲状腺疾患 下出祐造
J 頸部リンパ節・神経・その他の診療
1 リンパ節炎 平 憲吉郎
2 リンパ節転移 古川まどか
3 悪性リンパ腫 古川まどか
4 神経鞘腫 古川まどか
5 頸動脈小体腫瘍 志賀清人
6 正中頸囊胞 吉田真夏
7 側頸囊胞 吉田真夏
8 類表皮囊胞・類皮囊胞・粉瘤 木谷有加
9 脂肪腫・脂肪肉腫 木谷有加
10 リンパ管腫・血管肉腫 木谷有加
11 軟骨肉腫 木谷有加
K 頭頸部外科手術におけるエコーの活用
1 術中エコーの適応と評価 橋本香里
2 頭頸部外科術後管理におけるエコーの活用 富岡利文
3 術中経口エコー 堂西亮平
L 嚥下機能評価
1 簡便な嚥下機能評価としてのエコーの活用 吉田真夏
M エコーガイド下穿刺と医療安全
1 エコーガイド下穿刺手技とインターベンション 古川まどか
2 医療安全対策としてのエコー活用 古川まどか
N クリニック・総合診療・在宅診療における頭頸部エコー
1 ポイントオブケアとしての頭頸部エコー活用 植村和平
2 耳鼻咽喉科頭頸部外科クリニックにおけるエコー活用 齋藤大輔
O 頭頸部エコーの普及と教育
1 プロジェクションマッピングの活用による頭頸部エコー教育と遠隔診療 下出祐造,北村守正,出原立子
付録:エコー検査報告書の書き方
1 エコー検査報告書の書き方 堂西亮平
2 エコー検査報告書で必須の用語 堂西亮平
索引
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序文
はじめに
1 頭頸部エコー診断の歴史
1980年代,CTをはじめとする各種医療用画像が臨床の場に登場した時期にエコーも臨床応用されるようになった.それまでは軍事用や漁業用の探査機として用いられてきたエコーの技術を医療の現場に応用するまでに,関係者皆さまの多くの苦労があったと聞いている.まず,心臓,肝臓といった深部臓器から臨床応用が始まり,体表臓器では乳腺,甲状腺,耳下腺の腫瘍性病変の検出や頸動脈の健診が行われるようになり臨床現場に定着していった.
体表臓器に用いる高周波数探触子が最初はなかったため,病変が非常に浅いところに存在する場合は,探触子と体表との間に水袋やゼリーパックなどのスタンドオフを置き焦点をあわせ,患者の体位を調整しながら検査を行っていた.頸部に関しては前頸部を伸展したところにスタンドオフを置く形で甲状腺の検査が行われていたため,甲状腺以外の頸部全体の情報を観察することは困難であった.
このように特殊な検査手技が必要であったことに加え,超音波の物理学的特性から様々なアーチファクトが画像に混在するため,この特性について学習し専門的な知識と経験をもつ医師,検査技師や放射線技師が中心になって検査や診断に関わってきた流れがある.この傾向がその後もエコーが非常に特殊な検査であるという固定観念を生み,特に頭頸部領域の日常診療への普及が遅れた要因の一つとして考えられる.
1980年代後半以降急速に体表用リニア型探触子の開発が進み,体表に沿って自由に動かしながら走査ができるようになるとともに高周波数探触子が開発され体表近くの病変がより精細に描出可能となった.2000年前後には世の中の画像のデジタル化に伴いエコー画像もデジタル化され,様々な画像処理がリアルタイムに可能になったことで,アーチファクトの影響が軽減された.さらに病変だけでなく頸部の筋,血管,各種臓器の描出もより忠実になり,生体の形態および解剖や,体内の動き,血液の流れをリアルに表示できるようになった.特別な知識や技術がなくても,誰もが探触子をあてるだけで良好な画像が得られるようになったことで,体表エコーの診断的価値が急速に認められるようになってきている(図1).
今後,診療科を問わず頭頸部エコーが正しく行われ,多くの患者がその恩恵を受けられるよう,我々頭頸部外科医が正しい指南書を作成していくべきと考える.
2 頭頸部エコーによる頭頸部診療の質向上を目指して
頭頸部領域で筆者が現在のようなエコーの用い方を開始したのが1985年前後であり,その後装置の改良とともにエコーで観察対象となる臓器や診断可能な疾患が少しずつ判明してきた.最初は手探り状態から始まり,エコー像と手術所見やその他の画像所見と照らし合わせ,最終診断結果のフィードバックをかけることで徐々に頭頸部エコー診断学を作り上げてきた.画像が良好になるにつれて,「これは何だろう?」「これはどこを見ているのだろうか?」「これは何の病変を見ているのだろうか?」といった新たな発見に出合い飽きることなく日々のエコーを続けてきた.頭頸部外科医としてのエコーであるため,放射線診断医や検査技師が課せられる丁寧な診断は不要であり,診断や治療に向けた「次の一手」を見出すことができれば十分と考え,頭頸部疾患診断への近道,治療方針決定に直結するようなエコー診断を目指してきた.
エコーによって病変の正確な判断や今後の病状予測ができれば,患者はもちろんであるが,自分たち頭頸部外科医にとっても確実な診療が可能となるわけである.情報不足のまま不必要に患者を不安に陥れる必要もなく,根治性を落とさず形態や機能を温存した治療が可能になるはずである.さらに,そのような治療ができれば,頭頸部外科医の仕事もスマートになるはずである.
実際に自分が経験したエコー診断のメリットを多くの頭頸部外科医の仲間に知ってもらい,有効に活用してもらうことが,頭頸部外科医療の向上につながるという確信をもち普及に努めてきた.2000年あたりはちょうど頭頸部診療全般の標準化が盛んに行われ始めた時期であった.その標準化活動の一部として,頭頸部外科医の中から有志を募り「頭頸部超音波研究会」を立ち上げ,頭頸部エコーの普及と標準化,診断基準作成などを目指し現在も活動継続中である.今回のこの本は,この「頭頸部超音波研究会」のメンバー皆の共同作成によるものであり,この本を出版することが本研究会の今後の発展,頭頸部外科診療の進化につながることを確信する.
2024年11月
神奈川県立がんセンター頭頸部外科
古川まどか