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書籍詳細

研修ノート

精神科研修ノート 改訂第3版診断と治療社 | 書籍詳細:精神科研修ノート 改訂第3版

自治医科大学 学長

永井 良三(ながい りょうぞう) シリーズ総監修

東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 教授

笠井 清登(かさい きよと) 編集

京都大学大学院医学研究科精神医学講座 教授

村井 俊哉(むらい としや) 編集

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 教授

内田 裕之(うちだ ひろゆき) 編集

東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 講師

近藤 伸介(こんどう しんすけ) 編集

東京大学相談支援研究センター精神保健支援室 室長

大島 紀人(おおしま のりひと) 編集

改訂第3版 A5判 並製 688頁 2024年12月20日発行

ISBN9784787826527

定価:8,800円(本体価格8,000円+税)ただいまメンテナンス中です。
  

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精神科医を志す専攻医・若手医師を対象に,心構えからコミュニケーション,症候学,診断と治療,各種法律・制度や書類の書き方まで,精神科診療に携わるうえで必要とされる基礎から実践までの知識を網羅し余すところなく収載.DSM-5-TRに対応し,前版でも大好評の執筆陣によるコラムも内容を刷新して引き続き収録.コ・プロダクション,障害の社会モデル,多職種連携といった,これからの精神科診療に活かせる改訂第3版.

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目次

第1章 精神科研修へのアドバイス
A 精神科医を志す専攻医・研修医・学生の皆さんへ
  1 コ・プロダクションの時代の専門職  笠井清登
  2 精神科医を目指すあなたへ:若手精神科医からのメッセージ  高橋優輔
  3 若手精神科医へのメッセージ:人生行動科学としての精神医学  福田正人
  4 若手精神科医へのメッセージ:精神医学のサブジェクトマター  村井俊哉
  5 若手精神科医へのメッセージ:文化精神医学(臨床人類学)への誘い  江口重幸
  6 若手精神科医へのメッセージ:「私たちの精神疾患」で伝えたかったこと  鈴木みずめ
  7 若手精神科医へのメッセージ:これからのだいじょうぶな社会を目指して―当事者から  山田悠平
  8 若手精神科医へのメッセージ:ピアサポートの立場から  佐々木理恵,宮本有紀
  9 若手精神科医へのメッセージ:当事者研究とコ・プロダクションの視点  熊谷晋一郎
B 基本的素養
  1 社会モデル・人権モデルの時代の心の臨床  熊倉陽介
  2 トラウマインフォームドケア  亀岡智美
  3 精神医学・医療におけるダイバーシティとインクルージョン  里村嘉弘
  4 アンチスティグマとPPI
   1)スティグマ  山口創生
   2)患者・市民参画(PPI)  山口創生
  5 当たり前に使われる言葉に生きづらさの原因はないのか?  大石 智
C 研修の概要
  1 専門研修プログラムの選びかた  榊原英輔
  2 専攻医のライフスタイル  田尻智哉
  3 精神保健指定医取得・専門医取得に向けて  水谷真志
  4 総合病院精神科での研修の重要性  竹内 崇
D サブスペシャルティ
  1 児童精神医学  公家里依
  2 コンサルテーション・リエゾン精神医学  和田 健
  3 老年精神医学  粟田主一
  4 司法精神医学  和田 央
  5 アディクション  成瀬暢也
  6 てんかん  谷口 豪
  7 サイコオンコロジー  明智龍男
  8 災害精神医療  大塚耕太郎
  9 精神科救急  今井淳司
E 勉強のしかた
  1 研修の到達目標  榊原英輔
  2 教科書,参考書の選びかた  宇野晃人,森田 進
  3 カンファレンスの聞きかた,発表のしかた  平山貴敏
  4 精神科医にとって研究とは何か  加藤忠史
  5 臨床倫理と研究倫理  井藤佳恵
  6 大学院・医学博士・海外留学  藤川慎也
  7 学会での症例報告の準備と発表のしかた  田宗秀隆
  8 医学論文の読みかた・書きかた・英文  山名隼人
  9 仕事と子育ての両立  布施ひと美
F 医療現場でのコミュニケーション
  1 医療コミュニケーションの基本  藤山直樹
  2 精神疾患とコミュニケーション  田中伸一郎
  3 家族とのコミュニケーション  市橋香代
  4 リエゾン場面でのコミュニケーション  加藤 温
  5 救急医療でのコミュニケーション  日野耕介
  6 移植医療における精神科の役割  岡田剛史
  7 精神科における臨床心理士の役割  津川律子
  8 精神科における精神保健福祉士の役割と連携  向谷地生良
  9 精神科における看護師の役割  宮本有紀
  10 精神科作業療法における作業療法士の役割  早坂友成
  11 精神科における薬剤師の役割  吉尾 隆
  12 精神科におけるピアサポートワーカーの役割  石田貴紀
  13 学校との連携  渡辺慶一郎
  14 職場との連携  川上慎太郎
  15 地域の支援者との連携  長門大介

第2章 精神科研修でマスターすべきこと
A 精神疾患の疫学
  ■ 精神疾患の疫学  西 大輔
B 脳科学からのアプローチ
  ■ 脳のはたらき  高橋英彦
C 面接・評価方法
  1 面接の技法・マナー  青木省三
  2 カルテの書きかた  上野修一
  3 予診のとりかた  須田史朗
  4 精神科診断学入門  古茶大樹
  5 身体疾患のスクリーニング  尾久守侑
  6 症状評価  田近亜蘭
  7 入院適応の決定  白鳥裕貴
  8 行動制限  和田 央
  9 入院治療のリスク管理(転倒,血栓,自殺・自傷行為,暴力行為)  杉田尚子
  10 小児の診かた  滝川一廣
D 検査法
  1 神経心理学的検査  村松太郎
  2 心理検査① ―投映法―  中村紀子
  3 心理検査② ―質問紙法―  岡村由美子
  4 精神疾患のための臨床脳波学  福田正人
  5 精神科で必要なCT/MRIの見かた  森田 進
  6 精神科で必要な核医学検査  髙野晴成
  7 光トポグラフィー  里村嘉弘
E 治療法
  1 生活・人生と医療  福田正人
  2 薬物療法
   1)総 論  明智龍男
   2)睡眠薬・抗不安薬  澤井大和
   3)抗うつ薬  岡田 剛
   4)抗精神病薬  沼田周助
   5)抗てんかん発作薬  藤岡真生
   6)気分安定薬  寺尾 岳
   7)小児における向精神薬の使用  濱本 優
   8)身体科入院中の患者における向精神薬使用の留意点  近藤伸介
   9)高齢者における向精神薬の使用  水谷真志
   10)向精神薬と妊娠  安藤俊太郎
   11)向精神薬のリスク  神出誠一郎
   12)薬物療法の適正化  市橋香代
   13)漢方薬の使いかた  徳田裕志
  3 精神療法
   1)支持的精神療法  青木省三
   2)精神分析的精神療法  池田暁史
   3)認知行動療法  日吉史一,久我弘典
   4)マインドフルネス認知療法  佐渡充洋
  4 電気けいれん療法(ECT)  神出誠一郎
  5 精神科リハビリテーション  森田健太郎
  6 うつ病患者のリカバリー支援  竹林 実
  7 心理教育-実感と納得に向けた病気と治療の伝えかた  福田正人

第3章 症候からみる状態像
A 症候からみる状態像
  1 精神症候の診かた  植野仙経
  2 意 識  平田りさ,村井俊哉
  3 記 憶  上田敬太
  4 注 意  植野 司
  5 知 能  義村さや香
  6 知 覚  三嶋 亮
  7 思 考  高橋 司,村井俊哉
  8 感 情  大杉文宏,村井俊哉
  9 意欲・動機  藤原広臨
  10 自己意識と同一性  山村啓眞

第4章 疾患ごとの診断と治療
A 統合失調症
  1 統合失調症  福田正人
  2 統合失調感情症  吉原雄二郎
  3 妄想症  針間博彦
  4 カタトニア  諏訪太朗
B 気分症
  1 うつ病  中川敦夫
  2 身体疾患とうつ病  石田琢人
  3 認知症とうつ病  布村明彦
  4 双極症  坂元 薫
C 不安症
  1 社交不安症  大坪天平
  2 パニック症  宗 未来
  3 全般不安症  田島 治
  4 強迫症  阿部能成,中前 貴
D ストレス関連症
  1 心的外傷後ストレス症  堀 弘明,金 吉晴
  2 適応反応症  小口芳世
E 解離症
  ■ 解離症群  是木明宏
F 身体症状症/作為症
  1 身体症状症  山田和男
  2 作為症  太田敏男
G パーソナリティ症
  1 パーソナリティ症群  白波瀬丈一郎
  2 ボーダーラインパーソナリティ症(ボーダーラインパターン)  平島奈津子
H 摂食症
  1 神経性やせ症  西園マーハ文
  2 神経性過食症  林 公輔
I 睡眠・覚醒障害
  1 不眠症  鈴木正泰
  2 睡眠時随伴症(レム睡眠行動障害,レストレスレッグス症候群)  普天間国博,高江洲義和
  3 睡眠時無呼吸症候群  中島 亨
  4 ナルコレプシー  山寺 亘
J 物質使用症・嗜癖症
  1 薬物依存
   1)医療で用いる薬物  宮里勝政
   2)不法薬物  宮里勝政
  2 アルコール使用症  木村 充
  3 嗜癖行動症  樋口 進
K 神経認知障害
  1 Alzheimer病  穴水幸子
  2 血管性認知症  山縣 文
  3 前頭側頭葉変性症  文 鐘玉
  4 Lewy小体型認知症  田渕 肇
  5 高次脳機能障害  船山道隆
  6 せん妄  竹内啓善
  7 てんかん  尾久守侑
  8 二次性精神または行動の症候群  八田耕太郎
  9 薬剤による精神症状  谷 英明,平野仁一
  10 神経疾患と精神症状  櫻井 準
L 幼・小児,青年期に発症する障害
  1 知的発達症  立花良之
  2 自閉スペクトラム症  公家里依
  3 注意欠如多動症  上月 遥
  4 限局性学習症  山田晶子
  5 チック症群  金生由紀子
M 性別違和
  ■ 性別違和  森井智視

第5章 知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
A 知っておくべき法律・制度,書類の書きかた
  1 守秘義務  五十嵐禎人
  2 精神保健福祉法  藤井千代
  3 知的障害者福祉法  梶 奈美子
  4 発達障害者支援法  西村優紀美
  5 障害者差別解消法  切原賢治
  6 障害者総合支援法と地域での暮らしを支える資源とサービス  森田健太郎
  7 障害年金制度  神谷瑞菜
  8 介護保険制度  古田 光
  9 成年後見制度  岡村 毅
  10 心神喪失者等医療観察法  久保彩子
  11 物質使用症関連の法律  武藤岳夫
  12 精神障害者に係る欠格事項(運転免許を中心として)  伊藤文晃
  13 保険診療,診療報酬  河上真人
  14 精神科における診断書  谷井久志
  15 紹介状とその返事  管 心
  16 処方箋  多田真理子
  17 入院診療計画書,説明・同意書  三井信幸
  18 退院サマリー  大坪 建,岩永英之
  19 英文紹介状の書きかた  井上隆志
付録
  ■ 略語一覧  高橋優輔,田尻智哉

索引
  和文索引
  欧文索引


◆Column
医師からの後押し~ピアサポートへの扉~
専攻医コラム:精神医学の多様性と沈黙
医療者のトラウマ反応に注意
スティグマは誰にでもある
当事者と一緒に作成した満足度アンケート
望ましくない言葉に出会ったときにできること
大学医局への入局のススメ
「成長曲線は横一線」
4D
エイジズム
サイコオンコロジーの魅力
治療反応性のない患者などいない
抄読会の勧め
オンライン発表とオンサイト発表の違い
私の経験から
患者とみなされた人(identified patient:IP)という考えかた
アルコール性肝硬変に対する肝移植
スクリーニング用の自己記入式尺度
「治癒」から「リカバリー」へ
チームの一員として
「ピアサポートの精神」と「世界人権宣言」
学校との連携
診療上のバランス感覚
社会脳
臨床医だからできる“逆”橋渡し研究のすすめ
大切なことが話される時
治療のキモ
診断は謙虚に,臨機応変に
検査をするか否か
精神医学における診断と治療
脳波と心電図の比較
核医学検査の安全性について
不眠に用いる漢方薬
抗精神病薬処方時のポイント
抗てんかん薬から抗てんかん発作薬へ
リチウム中毒
リスデキサンフェタミンと「覚醒剤」
せん妄に対するハロペリドール点滴静注
多職種連携における医師の専門性
定期的な身体管理は重要
健康教育の重要性
“どん底”療法
“マインドフルネス=瞑想?”
精神科リハビリテーションにおける個別の支援
デイホスピタルのメンバーより
ともに教え学ぶ心理教育
患者や家族の訴えを検証することの重要性
患者さんとのおしゃべりの中で記憶障害を探る
臨床場面における注意障害の評価と鑑別
discrepancy
幻覚妄想と医師の微笑み
居場所と役割と仲間が支える回復と成長
19世紀~20世紀のカタトニア
DSMの使いかた
身体疾患をもつ患者のうつ病診断に潜むミスコミュニケーション
前頭側頭型認知症とうつ病
双極症の治療者の使命とは
逃げるだけじゃだめ! 苦痛の回避は,苦悩の温床
飲む認知行動療法:ジャマイカ作用に注意!
楽観バイアスをもたせる指導が有効!
PTSD概念・診断の変遷
PTSDと医療
適応反応症に対する雑感
解離症への興味から
カルテと処方箋から,身体症状症の治療に精通している医師かどうかが見抜ける
BPD患者の家族に対する対応
パーソナリティ症と「うつ病」を自称する若者たち
「やせようと思ってやっている」行動なのか?
入院後に体重が増えない状況
江戸時代の症例
私たちの仕事はレッテルを貼ることではない
併存症
睡眠不足症候群
薬物依存関連用語
嗜好品依存
危険ドラッグ,脱法ドラッグ,違法ドラッグ
精神症症状について
認知症の臨床現場から
ヒドロキシジン(アタラックス®-P)について
言葉を発しない興奮に注意!
研修の心得
本人への診断の説明,告知
不注意=ADHD?
限局性学習症の診察に関連する用語や略称について
性別違和と精神科医のアイデンティティ
医師が秘密漏示罪で刑事責任を問われた事例-“僕はパパを殺すことに決めた”事件-
大学などの高等教育機関での障害者支援
医者がすべての情報をもっているとは限らない
社会の潮流からみた成年後見制度
説明責任と責任分散
刑罰と治療,どちらが大事?
新規個別指導
タイムカプセル
Hellaのオフィス -ファミリーセラピースーパービジョン-

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序文

改訂第3版への編集の序

 改訂第3版の発刊を前に,精神科を様々な立場,段階,状況で研修しておられる皆さんお一人お一人を想像しながら序文を書いています.私という精神科専門職のケースレポートを通じて,本書に込められたメッセージを感じ取っていただけると嬉しいです.
 初版は,ちょうど東日本大震災が起きた3か月後に出版されていることに今更ながら気づきました.ふだんの生活や仕事で想いを馳せることのなかった遠い沿岸部の町にいる市民の方々の困難や苦悩が他人事ではないとまず行動が先に出て,その後実感が湧いてきた頃でした.初版発行の前夜は,2008年のNature誌に「Mental wealth of nations」,2010年の同誌新春号に「A decade for psychiatric disorders」といったメンタルヘルスを唱導する記事が立て続けに出され,日本における状況をどうにか変えたいと思っていた頃でした.意識していませんでしたが「である調」の堅苦しい文体をはじめ,若気の至り(怒り)が序文に出てしまい,なんだか外国の威を借りて翻訳した勧告書みたいで恥ずかしいです.私は何を仮想の敵としていたのでしょうか.共同編集者の村井俊哉さんが2010年頃から多元主義を日本のメンタルヘルス専門職に教えてくださりはじめていたにもかかわらず,「生物-心理-社会モデル」の易・折衷主義性にまるで無自覚でした.
 改訂第2版への序文はそれに比べると「ですます調」でちょっと穏やかですね.もしかすると,第1版の序文で意気投合してくださった方もいれば,ちょっと暑(息)苦しく感じ,せっかく本屋で手に取ってくださったのに,閉じて書棚に戻してしまった方もいらっしゃったのではないかと今になって思います.これまで教科書の執筆者として認識されてこなかった,「体験の専門家」(障害のある当事者とその関係者という意味を含みますがより広い意味です)の方々のお名前を興奮気味にあげさせていただいていますね.東日本大震災以降,私が診察室の外に出て,いろいろな方々とお目にかかっていった行動を反映しています.価値(観)と行動,人生と回復ということについて考えを深めるようになった頃です.
 第3版には,最近一緒に「研究」や「運動」をさせていただくようになった体験の専門家の方々から学んだことをより意識的に反映させています.第2版と第3版の間には,世界中の誰もが予測だにしていなかった新型コロナウイルスのパンデミックが起きました.それから5年近くが過ぎ,社会は平時に戻ったかのようですが,私自身の世界観はもしこのパンデミックがなかったと仮定した場合と比べて確実に変化したように感じています.その変化を十分に言語化できていないのですが,東日本大震災の前と後との違いに類似点があるような気がしています.おそらくそう認識している,いないによらず,すべての個々人のこころを変え,それにより構成される社会をも有意に変化させたものと思います.私たちはより一層,社会モデルとコ・プロダクションの時代の精神医学ということを考えていかねばなりません.こうした課題意識を共有いただければ嬉しいです.
 以上,第1版,第2版の編集の序をメタ解析するような視点で第3版への序を書いてみました.もし次の機会を10年(一昔)後に与えられるとしたら,どんな教科書が当たり前になっているだろうかというイメージを割と明確に想い描いています.しかし現時点では医学出版社から出していただけないと躊躇されるかもしれませんし,また思いがけない個人や社会の変化もあると思うので,こころのタイムカプセルの中にしまい,個人と世界の相互作用・相互形成の履歴としての行動を積み重ねていきます.

2024年11月行動吉日
編集者を代表して
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
教授 笠井清登



改訂第2版への編集の序

 精神科研修ノート改訂第2版へようこそ.初版への序文を書いたのは,東日本大震災後のこころのケア活動の真っ最中でした.この5年間,精神科医としても,生活と人生を送る人としても,非常に濃密な経験をさせていただきました.そのことを,特に第1章Aに込めたつもりです.
 石川義博先生による,永山則夫の精神鑑定を通して学んだ精神療法の本質.罪を背負って生きる加害少年と向き合ってきた青島多津子先生の覚悟.当事者・家族・精神科医のトライアスロンを生きる夏苅郁子先生の目指す「精神医学のリカバリー」.家族会の岡田久実子さんの「人間にとって一番重要な医療だという誇りをもって」とのエール.他の出版社の社長さんがなんで執筆陣に!? そしてなんと,松本ハウスのキックさんにまでケアラー学を語っていただきました.学生さんのコラムも,精神医学とは何か,精神科医とはどんな存在かを改めて教えてくれ,身が引き締まります.
 本書を手に取った研修医・学生さんが,これらの原稿を読んで涙を流し,それが涸れたとき,精神科医を目指す覚悟が決まる,そんな「とんでも」教科書になっていればありがたいです.
 少々感傷的になりましたが,ノートという言葉のもつ手軽さと,その道の最高の専門家による正統かつ最新の内容とが見事に同居した,なんとも贅沢な教科書.これが本書の最大の特長です.本書の改訂を重ねながら,「精神医学のリカバリー」を実現していきたいと思っています.

2016年4月吉日
編集者を代表して
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
教授 笠井清登



初版への編集の序

 精神医学は,精神的不調に陥り,社会生活に困難をきたす個人に対し,生物―心理―社会的に包括的アセスメントを行い,生物―心理―社会的アプローチを組み合わせて,その人らしく幸福に生きることを支援する医学である.精神医学は医学のなかで最も社会との接点が多く,その役割は,個人のもつ精神疾患の治療にとどまらず,社会全体の精神的幸福の向上にも貢献しうる分野である.このたびの東日本大震災においても,こころのケアのニーズが緊急かつ重大であることを痛感した.
 本来医療の目標とは,個人の身体を生物学的に治癒に導くだけでなく,全人的な観点から,その人の主観的幸福の追求に寄り添うものであったはずである.身体疾患をもつ人においても,精神的不調の頻度は高く,それ自体が身体疾患の予後を左右することが知られている.精神医学は,医療の原点である全人的営みを思いださせてくれる,全ての医療人にとって必要な素養である.
 このような精神医学の重要性に鑑み,定評のある「研修ノート」シリーズの仲間として精神科を加えていただいたことは,画期的なことであると考えている.

 私自身,精神医学の道をがむしゃらに進んできて,社会からの高いニーズに気づき,人生を捧げるにふさわしい,かけがえのないプロフェッショナルであることを知ったのは,つい最近のことである.と同時に,社会のニーズに応えるためには,日本の精神医学教育のレベルを格段に高めなければならない,と胃が痛くなるような義務感にもかられてきた.
 したがって,この精神科研修ノートでは,その書名が醸し出すソフトで気軽なイメージと裏腹に,共同編者,執筆者の選定を極めて厳正に行わせていただいた.お気づきのように,共同編者は,私も含めて,まだ定番の教科書の編者等に名を連ねていない若手ではあるが,これからの日本の精神医学教育を長期的な視野に立ってリードしていく,またその責務を負っている人々である.執筆陣についても,医育機関や研修指定病院等で実際に研修医の指導にあたっており,かつ,信頼できる学術的バックグラウンドをもつプロフェッショナルを厳選した.実務的な本であるにもかかわらず,各社が発行している精神医学の学術書や辞典に勝るとも劣らない第一人者が快く執筆を引き受けてくださり,本書の教育的価値を高めて下さったことに感謝している.

 本書のコンテンツは,若手の編者らが,自分の研修時代を振り返り,「このようなノートがあったら」という理想像を描き,各研修施設で講義やクルズス等を通じて実践しているアイディアを持ち寄ることにより,構成されている.
 本書を用いる後期研修医の方々は,臨場感あふれる,その日その日に遭遇する症例にすぐ適用できる知識がコンパクトに書かれていることに,感動していただけるものと信じている.また,本書が後期研修医のみならず,初期研修医,医学生,ひいては心理,看護,精神保健福祉,作業療法,薬剤などの,精神科医と手に手を取り合う多職種のプロフェッショナルを目指す若手にとっても有用な本となることをひそかに期待している.

 最後に,多忙を極めるなか,本書のもつべき高い教育的意義に賛同し,これ以上なく細やかな編集作業をしていただいた共同編者の方々,編者らの意図を十二分にくみ取り的確な原稿をお寄せいただいた執筆者の方々,それらをユーザーフレンドリーに取りまとめて下さった診断と治療社の方々に厚く御礼申し上げる.

2011年6月吉日
編集者を代表して
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
教授 笠井清登