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書籍詳細

これであなたも研究者!
臨床研究の歩き方診断と治療社 | 書籍詳細:臨床研究の歩き方

国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター

永井 宏和(ながい ひろかず) 編集

初版 A5判 並製 196頁 2025年01月10日発行

ISBN9784787826503

定価:3,850円(本体価格3,500円+税)ただいまメンテナンス中です。
  

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実はみんなつまずいてる? 臨床研究でぶつかりやすい疑問や課題に焦点をあて,臨床研究センターのスタッフが中心に解説しました.研究手法などの基礎的な内容から,データ収集や分析,論文作成のコツなどの実践方法,さらに効率的な研究運営のために必須である協力者との役割分担など,幅広い内容を網羅しています.具体的な事例と豊富なアドバイスを交えながら,初心者でも臨床研究の全体像がわかりやすく学べる1冊です.

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目次

はじめに  小寺泰弘
編集の序  永井宏和
執筆者一覧
略語一覧

第1章 イントロダクション
 A 臨床研究ってなんだろう?  永井宏和
 B 先人たちの成果に学ぶ  二村昌樹

第2章 臨床研究の手法を学ぼう
 A 研究デザインにはどんなものがあるの?  関水匡大
 B 臨床研究の評価とエビデンスレベル  二村昌樹
 C 記述的研究ってどんなもの?─看護研究における質的帰納的研究を例に  白鳥さつき,大石ふみ子
 LEARN MORE 疫学研究から得られるもの─疫学とリアルワールドデータ  堤 育代

第3章 統計は武器だ,賢く使おう
 A データのまとめ方  嘉田晃子
 B 統計的推測ってどういうこと?  嘉田晃子
 C バイアスとその対処法  橋本大哉

第4章 研究計画書を作成しよう
 A 研究計画書はどうつくるの?  齋藤明子
 B 研究のプロセスを支援するもの  山本松雄

第5章 臨床研究を運営しよう
 A ひとりではできない臨床研究   深野玲司
 Case Study 臨床研究を行うには─NHOネットワーク共同研究を通じて  鈴木康裕
 B 臨床研究を“運営する”ために必要なこと  浅田隆太

第6章 研究倫理をクリアしよう
 A 避けては通れない研究倫理と被験者保護   平島 学
 B 被験者の個人情報保護と被験者の同意   宮川慶子
 C 臨床研究における利益相反管理  中山 忍
 D 倫理審査
  ①臨床研究と倫理審査委員会  中山 忍,宮川慶子
  ②医師主導治験と治験審査委員会  平島 学

第7章 論文を書こう
 A 得られたデータから結果をまとめる  伊藤典子
 B アクセプトされる論文って?  服部浩佳
 C 知っておきたい論文の書き方 ベーシック  小暮啓人
 Case Study 臨床研究センターへの相談事例から  末永雅也

索引
おわりに  近藤隆久

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序文

はじめに

 自らの知識と経験をもとに「医師のさじ加減」により診療がなされる時代から,エビデンスに基づくガイドラインが世の中に溢れる時代となって久しい.しかし,診療行為の細部に至るまで臨床研究がしつくされ,正答が得られているわけではない.ゆえに,臨床研究により身近なクリニカルクエスチョンに答えを出していく姿勢は,日常診療を行ううえで大変貴重である.
 新薬の開発治験などを除いて,臨床研究のなかで行う医療行為は,基本的には日常診療の延長線上にあるものなので,日常診療の内容を記録したものの蓄積だけでも様々なことを知ることはできる.いいかえれば,データベースを後方視的に検討するだけでも何らかの回答は得られるかもしれない.そのような研究であれば,さほど費用も手間もかからず,手軽に結果が得られるようにも思われるが,その結果が真実であるか否かはかなり怪しい.いわゆる「エビデンスレベルが低い」というやつである.
 一方,例えば莫大な費用と年月を費やして開発した薬剤の有効性を,治験で証明して商品化するには,極めて高い品質のデータの収集と管理が求められ,そこにも大変な費用がかけられている.余談であるが,このようにして世の中に出てくる新薬の価格がもたらす患者さんへの影響は“financial toxicity”と呼ばれ,グローバルな問題となっており,それをなるべくカバーしようとするわが国の保険診療は限界に来ているように思われる.話を戻すが,臨床研究法は,臨床研究にもこのように莫大な費用をかけた治験と同等の質を求めるものであり,正直なところ,かなり無理がある話である.しかし,「無理」といってしまうと何もできなくなるし,被験者の協力を得て行うものである以上,最低限の品質を備えていなければならないのも事実である.それだけに,時間と労力をかけて行った臨床研究で思うような結果が出ないと大変残念なことになる.もちろん,誰もが効果があると信じて(あるいは指導されて)行ってきた治療法が全く無効であることが示された臨床研究もいくつもあるのは事実であるが,世の中はそういうものであり,ネガティブデータであっても質が高いものであれば,それは科学的に貴重な財産であり,受け入れてガイドラインに反映させなければならない.しかし,最もつらいのは,研究デザインが今ひとつであるために,望ましい傾向は示せてもぎりぎりで有意差が出ない研究であり,よいと信じる治療法を患者さんに届けることができない口惜しさ,そうした治療法を第三者に無下に否定される悔しさは筆舌に尽くしがたいものである.
 読者のみなさまには,臨床研究の手法をしっかりと学び,勝負どころでは適切な研究デザインをもとに,必要症例数をともに集積できる仲間を募って,世の中を前に進めていただきたい.

2024年11月
国立病院機構名古屋医療センター院長
小寺泰弘




編集の序

 みなさん,本書を手に取っていただきありがとうございます.
 私たち医療者の務めは,目の前の患者さんに最大限の努力で適切な医療を届けることです.ガイドラインや論文を手に,患者さんが快方に向かうように日々頑張っています.でも,知りたいことがガイドラインに記載されておらず,日常臨床で困ったことはありませんか? また,医学は著しいスピードで進歩していますが,その進歩に自分もかかわってみたいと思ったことはありませんか? そんな時,私たちは臨床研究を思い浮かべるのではないかと思います.仲間を募って臨床研究を行い,そしてエビデンスを得ることは,未来の医療への貢献となるのです.
 国立病院機構名古屋医療センターは臨床研究センターを併設しており,以前より臨床研究の企画や運営をサポートしてきました.医師主導治験などの経験も含め,いろいろなノウハウが蓄積されてきたところです.さらに,当センターでは定期的に院内向けの研究相談会を開催し,多くの医療関係者から臨床研究で困っていることについて相談を受けています.すると,みなさんの疑問に共通しているところも多いことがわかってきました.そこで,そんな疑問に答えることができるように,本書の企画に至った次第です.
 統計,論文検索法,研究倫理など,気になる部分をみていただくのもよいのですが,読み物として本書を最初から最後まで読んでいただけると,臨床研究の全体像がつかめるのではないかと思います.口幅ったい言い方ですが,臨床研究への理解が深まると,いろんな臨床場面での考え方に幅が出てくると思います.当然,医学論文を読む時にも,理解が深まること請け合いです.
 臨床研究は,決して私たちの臨床現場と離れたところにあるわけではありません.本書をガイドにして,未来の医療へ踏み出していきましょう.

2024年11月
国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター
永井宏和




おわりに

 本書を手にとられた方はどんな方でしょうか? 臨床研究の講義や試験を直前に控えた医学生・医療系学生の方でしょうか,晴れて社会人となり医療人としての人生を歩みはじめたばかりの方でしょうか,あるいは症例報告や事例報告をある程度行ったことのある医師や医療スタッフの方でしょうか.本書は,学生の方々にとってはやや難しかったことと思います.医師や医療スタッフの方々にとっては,臨床研究の奥深さをはじめて垣間見るよいきっかけとなったことと思います.しかし,読者のなかには「まだ(通常の)臨床と学会発表や看護研究,臨床研究の違い,よくわからなかった」「まずい,やっぱりわからない,もう1度読み返そう」という印象をもった方が多いと思います.では,なぜそのような印象をもったのでしょうか.
 本書は,臨床研究のプロ集団である国立病院機構(NHO)名古屋医療センター臨床研究センターのスタッフが中心となってつくりあげた,臨床研究を行う初級者のための本です.初級といっても,臨床研究の作業工程は初級と上級とで大きな差があるわけではなく,みなさんが面食らったのも当然です.
 日常診療に関しては,みなさんは学生時代から多くのことを勉強し,実際に患者さんに接するようになったら,先輩や同僚,教科書やガイドラインなどから様々な情報収集を行い,それらのすべての情報をよく吟味して目の前にいる患者さんを治療していることと思います.不思議なことにそのみなさんの多くが,臨床研究をはじめる時は,なぜか同じ失敗をくり返します.具体的には,臨床研究の仕方を十分に勉強せず,とりあえず日々の臨床のデータを収集して解析を行い,統計ソフトの解析結果でP値が0.05未満であれば,有意差ありとして学会発表や論文執筆を行ってしまうという失敗です.実際に研究を行うと,すぐに問題に気がつきます.検査データは欠損値ばかりであり,既往歴や併存症がわからない,治療法も主治医により異なっている,現在通院しておらず予後不明なことが多い,などなどです.挙句の果てには,「もともと何を調べようとしていたか忘れている」という人さえいます.
 はじめて臨床研究を行う方々は,臨床研究は日常診療の延長と考えているかもしれませんが,全く手順は異なります.本書はその手順をすべて網羅しています.本書の内容のくり返しになりますが,最初のステップは,目の前の患者さんや医療現場から生じた疑問を構造化(クリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンに置き換える)し,先行研究をしっかり調べあげることです.すでにかなりの人が知っていることをわざわざ手間や時間をかけて調べる必要はありません.先行研究をしっかり調べた後にまだわかっていない疑問を解決するための研究計画を策定し,データの収集,解析,結果の解釈につなげて学会発表に臨みます.学会発表を終了し,その後に論文化することができ,しかもその論文がアクセプトされると,本人にしかわからない何ともいえない高揚感があります.その時の気分は,山登りをする人にはよく理解できるのではないでしょうか? 山に登り切って雲の上から景色を眺めた時の気分に似ています.
 本書を読み切ったみなさんは,先人たちが失敗し続けた道をたどらず,臨床研究を行える人になっていることと思います.

2024年11月
国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター長
近藤隆久