あの症例どうなった? 専門医に紹介した不思議な発作と神経症状たち診断と治療社 | 書籍詳細:あの症例どうなった? 専門医に紹介した不思議な発作と神経症状たち
広島大学病院脳神経内科 助教
音成 秀一郎(ねしげ しゅういちろう) 著者
初版 A5判 並製 344頁 2024年12月23日発行
ISBN9784787826251
定価:6,600円(本体価格6,000円+税)冊※ただいまメンテナンス中です。
非専門医が脳神経内科の専門外来に紹介した22の症例をベースに,受診した先の問診から始まる鑑別プロセスや思考過程,そして最終的な診断に至るまで「非専門医からの視点」と「紹介を受ける側の視点」の両方向性を意識した構成で丁寧に解説.
てんかん・意識障害の多彩な主訴や神経症候 の『その後』どうなったかを知りたい,ジェネラリストや若手脳神経内科の先生方の『neurology力』がアップ出来る1冊.
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目次
はじめに
本書を読む前に
著者略歴
Chapter 0 なぜ「てんかん」を知る必要があるのか
Introduction 本書を読みはじめる前に
Chapter 1 てんかん or Not ―Neurologyの選球眼―
Case 1 てんかんの誤診はこうして生まれる
Case 2 「過呼吸」に30年苦しんだ中年女性
ショートCaseレポート 重積は止めたけど徐脈が続いています
Case 3 「静かに繰り返す意識消失」の大学生
Case 4 「動きが止まる発作」の青年
Case 5 「深夜にリビングで徘徊」の中年女性
Case 6 「物忘れと意識減損」を何とかしたい青年
Chapter 2 てんかんだと思うけど,対応合ってる?
Case 7 治療をやめたいと訴える全般てんかんの高校生
Case 8 若年ミオクロニーてんかん:こんなに再発する?
Case 9 診断後に発作が増えた若年女性
Case 10 てんかん重積状態で頻回にICU管理した難治てんかん
Case 11 電話対応ができなくなった焦点てんかんの女性
Chapter 3 ちょっと対応急ぎます
Case 12 毎晩,深夜に奇声をあげる発作
Case 13 発作が止まらない!駆け込み受診した蘇生後脳症
Case 14 安定していた後頭葉てんかん:幻覚で緊急入院
Case 15 発作の報告は誰を信じる? 難治てんかんの中年男性
Case 16 発作は止まるも静かに再上昇するCK値
Chapter 4 外来相談は人生の『好転化』のチャンス
Case 17 『減薬』を試みた長期で多剤併用中の青年
Case 18 『妊娠希望』の多剤併用中の症例で減量してみた
Case 19 『学校』でしか発作が起きない教諭
Case 20 『車』で当て逃げした中年女性
Case 21 『バス』に怖くて乗れない女性
Case 22 『薬』は効いていたはずなのにますます悪化
索引
おわりに
Note.てんかん診療に強くなる
▶初回発作後の生活上のアドバイス
▶てんかん発作の多彩性
▶発作の急性期対応
▶てんかんの危険因子
▶自信を持っててんかんを除外するために
▶夜間のイベントを起こす鑑別疾患の問診ポイント
▶レム睡眠行動障害(RBD)があればパーキンソン病をチェックする
▶特発性全般てんかん(IGE)の「らしさ」を押さえる
▶ミオクロニーとミオクローヌス
▶見せかけの薬剤抵抗性てんかんとは
▶心因性非てんかん発作(PNES)とは
▶PNESに特徴的な発作症状
▶PNESの病態別の介入
▶「言葉が出ない」は,てんかん発作でも起こりえる
▶てんかん患者の不安障害
▶派手な病歴のてんかんは自己免疫性も考える
▶不随意運動とてんかん発作
▶ミオクローヌスはコモン
▶ミオクロニー発作で避けるべき抗発作薬
▶てんかんと精神症状
▶抗発作薬でPNESが悪化するパターン
▶脳卒中とてんかん発作
▶抗発作薬の減量や中止
▶妊娠に向けた計画的な薬剤調整
▶てんかんの画像診断
▶側頭葉てんかんでの扁桃体腫大
▶長期的な服用による代謝への影響
▶てんかん患者のQOL
▶抗発作薬のparadoxical effect
ミニレクチャー
❖診断エラーの回避のために
❖てんかん患者の予期せぬ死(SUDEP)
❖てんかん外来の問診リスト
❖自然に終息するてんかん
❖前頭葉てんかんの発作の細分化
❖VEEGで徐波も認めない側頭葉てんかんがあるのか?
❖なぜVPAの治療がうまくいかなかったのか?
❖特発性全般てんかんでも難治のパターンがある?
❖ペランパネル(PER)の使いどころ
❖紛らわしい「ミオクローヌス」と「ミオクロニー発作」
❖てんかん患者での精神症状のポイント
❖レベチラセタム(LEV)と精神症状
❖発作の報告はファクトチェックから
❖脳卒中後てんかんの予後
❖てんかんは治るのか?
❖葉酸の投与量はよくわからない
❖前兆という言葉の語弊
❖てんかんと自動車運転
Column
・発作のエマージェンシー
・睡眠関連摂食障害(SRED)
・ビデオ脳波モニタリングの敷居は下げていい
・てんかんと診断しがちな病歴
・LEVという使いやすさ,VPAという武器
・薬剤抵抗性てんかん(drug resistant epilepsy:DRE)
・てんかんは,何を治療するのか
・ベンゾジアゼピン系の使い分け
・PNESは精神科医がみるべきなのか?
・「震え」と「振るえ」
・arm drop試験とPNES
・産褥期の対策も忘れない
・てんかん合併妊娠と児の知能
・新しい脳地図
・musicogenic epilepsy(音楽誘発性てんかん)
・側頭葉てんかん患者に「物忘れ」を相談されたら
・道路交通法について正しく伝える
・てんかん重積や脳炎後の長期予後
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序文
はじめに
なぜてんかんなのか?
みなさんの周りには「臨床がデキる」頼もしい先生がいますよね.私も卒後10年以上が経ちましたが,これまでに「この先生には敵わないな」と直感的に感じることが何度もありました.一瞬にしてスカウターがバキッと弾け飛んでしまう,『ドラゴンボール』のあれです.たとえば自分でなんでもできてしまう守備範囲の広いジェネラリストたち.彼・彼女らは自分のスペシャリティーを持ちながら,ときには脳神経内科分野での強みも発揮しています.頭痛の診療が得意だったり,パーキンソン病の診察も一通りこなしたり,脳梗塞やてんかん発作の急性期対応までカバーされてしまうと専門医としては立場がなくなりますが,一つだけ未踏の領域があります.それは『てんかんに強いジェネラリストいない説』です.
これは「てんかん専門医こそ最強!」と主張するつもりはもちろんありません.むしろ真逆で,ジェネラリストの先生たちがもし「てんかん」に強くなれば,その希少性がさらに高まるのではないかと考えています.なぜなら,てんかんの鑑別では「妙な意識障害や転倒イベント」,「震えや不思議な動き」,「心因のようにも思えるエピソード」など,コモンでありつつもヘビー級の症候たちが常に隣に居合わせており,みなさんにとってまさにブルーオーシャン.確かに脳神経内科アレルギーになりやすく,敬遠されがちな領域でもありますが,だからこそジェネラリストのみなさんがあるいはサブスペを決めていない若手の脳神経内科医が,もしこれらを実装できたならば唯一無二の存在になれるはず.
本書はそのようなビジョンで企画しました.てんかんは100人に一人もいるコモンな全世代の疾患で,その需要は確実であるにもかかわらず,ジェネラリストにとっては未踏の地なのです.
大事なことは紹介したその先
ところで,大学病院の専門外来に紹介するのってハードルが高くないですか?私も若い頃,専門の先生に紹介するのを躊躇した経験があります.そしていざ紹介するとなっても「この紹介状で大丈夫なのだろうか?」と思いあぐね,一方で勇気を出して紹介したものの戻ってきた返書には「ご紹介ありがとうございました,精査したいと思います」とだけ記載があり,結局あの症例のあの症候はなんだったのか,果たして紹介は正しかったのかとモヤモヤしたことを覚えています.なんなら今でも気になっています.
大事なことは,私たち臨床医は紹介した先,つまり臨床の結果を知らずして成長することはできないということ.自ら聴取した病歴や症候の解釈については,その答え合わせをしない限り臨床の次に生かせません.そしてその答えに至るまでの文脈にこそ真の価値があります.
そこで本書は「あの症例,どうなった?」の視点で,非専門医の先生が専門外来に紹介した症例をベースに,受診したその先での問診からはじまる鑑別プロセスや思考過程を学べるように仕上げました.多彩な主訴や神経症候の『その後』を経験していただくことで,ジェネラリストあるいは若手の脳神経内科の先生方の『neurology力』にてんかん・意識障害の鑑別力を拡張してもらいたいと思っています.目指した先はブルーオーシャンかもしれないし,あるいはディープブルーかもしれません.ですが,わからないことを受け入れて楽しめるような臨床力も同時に培っていただきたいと思っています.
本書が神経症候や病歴の魅力の気づきになれば幸いです.
2024年秋
広島大学病院脳神経内科
音成 秀一郎